ナチュラルチーズ
このプロジェクトでは、アゾレス諸島(Azores)、ポルタレグレ(Portalegre)、ベイラ・バイシャ(Beira Baixa)など、ヨーロッパとポルトガルの様々な地域のナチュラルチーズを振興しています。
原産地保護のチーズには、牛、山羊、在来種であるメリノ種の羊の乳を使ったチーズがあります。
気候、土壌、降水量などの自然条件において、羊や山羊の飼育に適した手付かずの自然の牧草地が確保されています。この自然条件のもと飼育された動物から生産される乳製品は、独特で他に類を見ない特性を有しています。
正真正銘の伝統の産物
ナチュラルチーズは、新鮮な乳と自然な原料のみを使用して製造されます。現代のナチュラルチーズ造りの4つの基本プロセスは、凝乳、水切り、加塩、熟成です。ひとつとして同じ製法で造られるチーズはないのです。プロセスチーズとナチュラルチーズの大きな違いは、プロセスチーズは洗浄、ブレンド、溶融などの工程が追加されていることです。植物油、食塩、着色料、砂糖などが含まれている場合もあります。プロセスチーズには、通常ナチュラルチーズが50~60%程度含まれています。
味、香り、栄養面、安全性、利用法、多様性、革新性に加え、当所会員のチーズの品質は、原材料の特性やヘルシーさ、そして非常に豊かな酪農の伝統を継承するチーズ職人の技術スキルと密接に繋がっています。また、ナチュラルで栄養価の高いチーズの中には、とりわけ高品質なものがあります。
ポルトガルのEU原産地呼称保護製品
現在ポルトガルのチーズには、11のPDO(原産地呼称保護)と1つのPGI(地理的表示保護)があります。
その中から10のPDOを取り上げます。
PDOピコ (Queijo do Pico PDO)
PDOピコは、牛の生乳から造られています。柔らかいバターのようなペースト状で、黄色がかった白い色合いの熟成したチーズです。
生乳を天然のレンネットで26~27°Cで約45~60分寝かして凝固させます。カードをカットし、小さめのサイコロ型にしたら、薄手の布に入れ、ホエーを押し出します。残ったカードを型に入れ、手でプレスし、両面に塩がけします。その後、温度15~17°C、湿度75~85%で、17~30日間かけて熟成します。
PDOピコの製造には、ホソムギ、イタリアン・ライグラス、クスダマツメクサ、トベラなどが育つ広大な場所で暮らす乳牛の乳が使用されています。チーズの直径は16~17cm、重さは700~800gです。味は塩味がしっかりしていて、魅力的な強い香りが特徴です。


PDOラバサル (Queijo Rabaçal PDO)
PDOラバサルは、セミハードからハードのチーズで、チーズアイは小さくて不規則、あるいはまったく無く、くすんだ白色をしています。牛と山羊の乳を混合し、動物性のレンネットを使って職人による手作業で製造します。
手搾りした乳をチーズ工房に運び、布でろ過してタンクに入れ、動物性のレンネットを加え凝乳します。45分~1時間程凝乳した後、カードを手でザルに上げ型枠に入れます。ホエーが完全に押し出されたら、軽く手でプレスし、塩がけをします。2~4日後に枠を外し、棚に並べて熟成させます。熟成中は週に3回洗います。その際、瓦の破片やナイフ、イチジクの葉などでチーズをこすり、綿や麻の布で拭いてから、再び棚に戻します。 熟成期間は20日以上です。
このチーズの特徴は、この地域に自生する「サンタマリア(Santa Maria)」と呼ばれるタイムを食べる乳牛や山羊の乳であることに起因しています。
PDOテリンショ (Queijo Terrincho PDO)
PDOテリンショは、シュラ・ダ・テラ・ケンテ(Churra da Terra Quente)の羊の生乳で造られる熟成チーズです。セミハードからハードタイプ(熟成したものはテリンショ・ヴェーリョと呼ばれる)で、白から黄色がかった色合いです。
搾乳後、ミルクはろ過され、35°Cまで加熱されます。レンネットを添加し寝かします。 凝乳したらカードを型に入れ、そこでホエーが取り除かれます。 型から取り出し、塩がけした後乾燥させます。その後、温度5~12℃、湿度80~85%の環境で30日間(ただし、テリンショ・ヴェーリョは90日間)熟成させます。また、チーズはこまめに洗浄し、上下を返します。
PDOテリンショの特徴は、広範囲で行われる羊の放牧方法です。テラ・ケンテ(Terra Quente)の自然豊かな山岳地帯に広がる様々な牧草地で放牧されています。
チーズは、直径約13~20cm、重さ800~1200g(テリンショ・ヴェーリョは600~1100g)です。デリケート、ピュアで、独特の風味を持ちます。(テリンショ・ヴェーリョはハードで独特の風味です)。


PDOセーラ・ダ・エストレーラ (Queijo Serra da Estrela PDO)
PDOセーラ・ダ・エストレーラは、ボルダレイラ・セーラ・ダ・エストレーラ(Bordaleira Serra da Estrela)種とシュラ・モンデゲイラ(Churra Mondegueira)種の羊の乳から造られます。 熟成したチーズで、セミソフトのバター状で白っぽい、あるいは黄色みがかったタイプのセーラ・ダ・エストレーラ(Queijo Serra da Estrela)と、セミハードからハードで茶色がかったオレンジ色のタイプのセーラ・ダ・エストレーラ・ヴェーリョ(Queijo Serra da Estrela Velho)の2種類があります。
セーラ・ダ・エストレーラ(Queijo Serra da Estrela)の製造工程は羊の搾乳から始まり、その後モスリンの布でろ過します。ミルクを28~32°Cまで加熱し加塩します。つぶして塩を加えたカルドン(キク科朝鮮アザミ属)の花を凝乳材として加えます(約0.2~0.3 g)。45~60分後、手作業でカードをカットし、再度ろ過を行って残ったホエーを取り除きます。成型、プレス、新たな加塩作業が終わると、次は熟成の工程になります。これは2つの段階に分かれます。第1段階では15~20日間、温度6〜12°C、湿度85~90%で熟成させます。毎日上下をひっくり返し洗います。第2段階は、温度6~14°C、湿度90~95%で45日間熟成させます。上下をひっくり返す作業、洗う作業は、外観を見て必要に応じて行います。セーラ・ダ・エストレーラ・ヴェーリョ(Queijo Serra da Estrela Velho)は、同様の温度と湿度条件で120日間熟成させなければいけません。
PDOセーラ・ダ・エストレーラに使用される乳は、その名の由来となった丘の自然な牧草地で放牧される羊から搾乳されたものです。セーラ・ダ・エストレーラ(Queijo Serra da Estrela)は、直径9~20cm、厚さ4~6cm、味はデリケートでピュアで、わずかに酸味があります。セーラ・ダ・エストレーラ・ヴェーリョ(Queijo Serra da Estrela Velho)の直径は約11~20cm、厚さは3~6cmです。魅力的で持続性がありピュアで、強めからやや強めの塩味とスパイシーな風味が特徴的です。
PDOニーザ (Queijo de Nisa PDO)
PDOニーザは、メリナ・ブランカ(Merina Branca)種の羊の生乳で造られます。セミハードで、黄色がかった白色をした熟成チーズです。
製造工程は、25~28°Cの温度の乳にカルドン(キク科朝鮮アザミ属)の煎じ汁を加え、45~60分かけて凝乳することから始まります。凝乳後、ホエーの一部を取り除くためにカードの最初のカットが行われます。その後、カードを型に入れ、手でプレスし熟成させます。熟成は、2段階に分けられます。第1段階は、温度8~10°C、湿度80~90%で15~20日間ほど、第2段階は、温度10~14°C、湿度85~90%で30~40日間ほど寝かせます。
PDOニーザは、地元でのみ製造されているチーズですが、職人技が光る品質の高いチーズとして全国的に有名です。直径10~12cm、重さ200~400gの「メレンデイラ(merendeira)」タイプと、直径13~16cm、重さ800~1300gのオリジナルタイプがあります。


PDOサン・ジョルジェ (São Jorge Cheese PDO)
PDOサン・ジョルジェは、牛の生乳から造られます。ハード、あるいはセミハードで、黄色がかった色合いの熟成チーズです。
牛の生乳はチーズ製造の前工程で、酸性化を促進するためホエーを添加し、天然レンネットで凝乳します。ホエーはその後押し出されます。型に入れ、片側の表面に製造者番号入りのカゼインのラベルを貼付します。こうすることで、品質チェックのために熟成年数や製造者名等の様々な情報を追跡確認することができます。その後、プレスをしながら、30日間自然な温度で寝かせます。最後に、温度12~14°C、湿度80~85%の環境で60日間熟成させます。
PDOサン・ジョルジェの特徴はその気候条件であり、これが多様な環境を造り上げ、乳質に良い影響を与えます。また、500年前からほとんど変わらない製造方法がこの製品の特異性をより一層高めています。チーズは、 直径約25~35cm、高さ10~15cmです。味と香りはしっかりしていてピュアで、スパイシーさが少し感じられます。
カブラ・トランスモンターノ / カブラ・トランスモンターノ・ヴェ―リョ (Queijo de Cabra Transmontano / Queijo de Cabra Transmontano Velho PDO)
PDO・カブラ・トランスモンターノは、セラーナ(Serrana)種の山羊乳から造られています。熟成したチーズでペーストは非常に硬く、色は均一な白色です。
製造方法は、乳をろ過し、35°Cまで加熱します。その後、天然レンネットで凝乳します。出来上がったカードは型に入れ、手でプレスしてホエーをすべて取り除きます。この後加塩し、温度5~18°C、湿度70~85%の環境で最低60日間熟成させます。
このチーズの特徴は、職人による長年変わらない製造方法にあります。また、使用する乳の特徴にも由来しています。直径12~19cm、重さ600~900gで、濃厚で魅力的な香り、スパイスの効いたすっきりとした味わいです。


PDOベイラ・バイシャ (Queijo da Beira Baixa PDO)
PDOベイラ・バイシャには、以下のチーズが含まれます。
- カステロ・ブランコ(Queijo de Castelo Branco) – 羊の生乳で造られます。熟成したチーズで、セミハード、またはハードで、黄色がかったチーズです。
- – ピカンテ・ダ・ベイラ・バイシャ(Queijo Picante da Beira Baixa) – 羊の生乳と山羊の生乳で造られています。熟成されたチーズで、セミハードまたはハードで、色は灰白色です。
- アマレロ・ダ・ベイラ・バイシャ(Queijo Amarelo da Beira Baixa) – 羊の生乳、または羊と山羊の生乳で造られます。熟成したチーズで、セミハードまたはハードで、黄色っぽい色をしています。
PDOベイラ・バイシャの製造方法は、チーズの種類によって異なります。
- カステロ・ブランコ(Queijo de Castelo Branco) – 天然凝乳材であるカルドン(キク科朝鮮アザミ属)を使用し、温度8~14°C、湿度80~90%の環境で、少なくとも45日間熟成させます。カステロ・ブランコ・ヴェーリョ(Queijo de Castelo Branco velho)は、90日以上熟成させます。
- ピカンテ・ダ・ベイラ・バイシャ(Queijo Picante da Beira Baixa) –動物性のレンネットを使用し、10~18°C、70~80%の温度で120日間かけて熟成します。
- アマレロ・ダ・ベイラ・バイシャ (Queijo Amarelo da Beira Baixa) – 使用するレンネットは動物性で、熟成期間は温度10~18°C、湿度70~85%で、45日間です。 アマレロ・ダ・ベイラ・バイシャ・ヴェーリャ(Queijo Amarelo da Beira Baixa velha) は、熟成は最低でも90日間で、ハードから超ハードタイプです。
PDOベイラ・バイシャの特徴は、羊が一年中放牧されていることです。羊たちは様々な牧草地を利用することができ、中には特別に栽培されている牧草もあります。
それぞれの製品の特長は下記の通りです。:
- カステロ・ブランコ(Queijo de Castelo Branco) – 直径12~16cm、重さ800~1300gで、味と香りは強く、「カステロ・ブランコ・ヴェーリョ(Queijo de Castelo Branco velho)」は少しスパイシーさが感じられます。
- ピカンテ・ダ・ベイラ・バイシャ (Queijo Picante da Beira Baixa)– 直径10~15cm、重さ400~1000gで、香りは強く独特で、味はとてもスパイシーです。
- アマレロ・ダ・ベイラ・バイシャ(Queijo Amarelo da Beira Baixa)– 直径7~10cm、重さ200~500gです。香りは強く魅力的、味はピュアで少し酸味があります。
PDOセルパ (Queijo Serpa PDO)
PDOセルパは、熟成したチーズで、バターのようにセミソフトで、チーズアイはまれに見かけられます。羊の生乳を、カルドン(キク科朝鮮アザミ属)で凝乳させ、時間をかけてホエーを取り除くことによってできます。
搾乳後の経過時間をできるだけ短くするために1日2回製造されます。熟成は、適した自然環境で、または空調設備のある場所で30日間かけて行われます。加塩は2回、1回目はろ過時、2回目は型に入れてホエーを取り除いた後に行われます。
PDOセルパを造るときには、4回だけの動作で、まるで十字を切るかのように宗教的な意味を込めてカッティングを行います。また、牛乳をろ過する際には、モスリンの布を40回折り曲げて使うなど、宗教的なこだわりがあります。


PDOエヴォラ (Queijo de Évora PDO)
PDOエヴォラは、メリナ・ブランカ(Merina Branca)種の羊の生乳で造ります。ハード、またはセミハードの、黄色がかった色合いの熟成したチーズです。
製造方法は、まず塩を含んだ布で牛乳をろ過し、薪で時間をかけて温め、地元のカルドン(キク科朝鮮アザミ属)の煎じ汁 を加えます。20分から40分かけて凝乳したら、その後ホエーを取り除きます。熟成期間はセミハードタイプが約30日間、ハードタイプが約90日間です。いずれも温度8~15°C、湿度80~95%の環境下で熟成します。
PDOエヴォラは、外観の異なるタイプがあります。
- 「スモール」直径6~8cm、重さ60~90gのハードタイプ。
- 「メレンデイラ」 直径12~14cm、重さ120~200gのハードタイプ。
- 「メレンデイラ」直径13~15cm、重さ200~300gのセミハードタイプ。
独特の香りと味わい、ややスパイシーで酸味があります。ハードタイプではより酸味が強く感じられます。